「やっぱ気付いちょるわなぁ三津さんは
「やっぱ気付いちょるわなぁ三津さんは。やけんこっち来たそっちゃ。気ぃ遣われたくなかったけぇ。まぁバレたならしゃあない。」
息苦しそうな高杉の肩をおうのが泣きながら抱いた。
「何なん……。頼れや……。何で黙ってっ!!」
入江は拳を強く握り締めて怒鳴った。【男士生髮洗頭水,你試過幾多枝?】盤點各大生髮方法利弊 病人にこんな大声上げるもんじゃないのは百も承知。だが隠し事をされていたのが許せなかった。
「何でって。格好悪いやろ。暴れ牛が病やで?
あーあ,上の連中は好き放題した天罰やとか好き勝手言うんやろうなぁ。」
高杉は自分自身を鼻で笑った。そこへ慌ただしく山縣が医者を連れて飛び込んで来た。
「おうのさん!医者!あ!?高杉なんじゃその血!!」
「人ん家来て煩いのぉ……。」
高杉は片耳に指を突っ込んで少しは落ち着けと溜息をついた。
「高杉さん,まぁた酒呑んだじゃろ。あれだけいけんって言ったやろ。」
山縣を押し退けて高杉の前に出た医者は,吐血しながらもにぃっと笑う顔を呆れながら見下ろした。
「おうのさん,湯を沸かして。高杉さんは横になり。前言うた様に上体なるべく起こすように。」
おうのは支持された通り湯を沸かしに台所へ走った。医者は手慣れた様子で布団を折り畳んでそれにもたれる様に高杉を寝かせた。
「どうせ助からん命やろ?それなら余生好きに生きさせろや。最後まで勝手させろ。」
“どうせ助からん命”
その言葉が入江達の胸に深く突き刺さった。高杉の寿命は決まってしまっているらしい。
「助からんのか……。」
山縣はよろよろと高杉に近付いて畳に両手と両膝をついた。
「労咳や。助からん。」
平然と言い放つ高杉を,三津達は呆然と見つめるしか出来なかった。言葉が出ず,黙りこくってしまった三人を高杉は笑った。
「三人揃ってなんっちゅう顔しとんじゃ。たまにこうなるが元気やぞ。」
「そんな青白い顔で説得力あるかっ!」
入江に怒鳴られても高杉は笑っていた。そこへ湯を張った桶を持って戻って来たおうのが,もう喋らないでと泣きながら高杉の顔や手を拭いて世話を焼いた。
「高杉さん,バレたんやからこれからは意地張らず私らも頼って下さい。おうのさんも。」
三津は高杉の正面に正座した。おうのはグズグズ泣きながら分かりましたと呟いた。
「頼るって言ってもなぁ。酒買いに行くぐらいしか頼む事は……。」
「じゃけん呑むな!」
言い終わる前に入江にまた怒鳴られた。入江が本気で怒っている。それは当たり前だよなと三津は眉尻を下げて小さく息を吐いた。
「高杉さん,高杉さんの人生やから余生をどう過ごしたいかは高杉さんの意思でいいとは思います。でもね?高杉さんの体って,高杉さんだけのもんやなくなってるんですよ。」
高杉は真剣に話す三津から顔を背けた。説教なんか聞きたくないと子供のように不貞腐れた。そんな高杉の汚れた着物をおうのがてきぱき着替えさせていく。
「説教するつもりはありません。無理に分かれとも言いません。ただ知ってて欲しいんです。
奇兵隊やおうのさん,萩にいらっしゃる奥様やご家族がどれほど高杉さんを心配しはるか。
病を知られたくなかった高杉さんにしたら,そんなん余計なお世話かもしれません。
でも,奇兵隊の誰かが欠けても泣くって言ったん高杉さんですよね?それはみんなも同じです。それだけは知ってて下さい。」
それから三津は入江と山縣の方へ振り返った。
「九一さん,山縣さん。今日は帰りましょう。おうのさんがついてますし,こうなった以上何かあれば報せてくれるでしょうし。」
顔も合わせてくれなくなった高杉に配慮した。武士の矜持と言うやつか。きっとこんな弱った姿を見せたくなかっただろうと心情を考えた。
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