こう。明日の催し場を確認しておかねば」

信長に従って本堂の中へ入って行く者、茶会で使う荷物の数々を運び入れる者に別れて、皆々しなく動き回り始めた。

濃姫も齋の局の手を借りながら、るように輿から降り立つと、

誰にも目を向けることのないまま、信長の背に続くように本堂の入口へと足を進めた。

が、濃姫は本堂の中へは入らず、そのまま入口を右に折れると、先に伸びる広縁の上をすたすたと歩き始めた。

「御台様、どちらへ…!?」

「──」

齋の局や古沍の呼びかけを無視し、濃姫は何かにかれたように、建物の奥へ奥へと進んで行く。

横に空き部屋や納戸が並ぶ殺風景な通路にたどり着くと、濃姫は実に神妙な面持ちで、その最奥へと足を運んだ。

行き止まりの壁の左手に、厚い両開きの杉戸が見える。

濃姫はその杉戸の前に立つと、一つ呼吸を置いてから、静かに戸の中へ入った。

薄暗く、物一つ置かれていない部屋の中。

その正面には、また別の扉があり、その扉を抜けると、

また同じような部屋が続き、やはり正面に扉がある。

『ああ、そうだ…。ここだ…、この続き戸、はっきり覚えている』

そしてこの扉を開けると、あるはずだ、あれが──。

それから程なくして

「まぁ、ここにおられましたか！」

「御台様、一人で勝手に行かれては困ります！」

齋の局と古沍が、息せき切って駆けて来た。

彼女たちがやって来た時、濃姫は一番奥の部屋で、こちらに背を向けるような形で立ち

濃姫の前には、あらこちらが塗りの木台があり、その上に古びたの仏像が安置されている。

齋の局は思わず彼女の背後に近付き「御台様？」と声をかけた。

濃姫は振り返らぬまま

「齋…。ここじゃ…」

「え？」

「寺の奥部屋、続き戸、この古い三宝尊──。私が何度となく夢で見た、あの場所に違いない」るような語気で、確信をもってそう言った。

齋の局も薄暗い部屋の中を見渡す内に、あっとなって目を見開いた。

「そうでございました、確か、ここでございます。以前この寺に参らた折に、御台様がお倒れになられたお部屋は！」

濃姫は振り返り、目でいた。

「あの折は、寺の飼い猫であった黒猫を追いかけて、私はいつの間にやらこの場所にやって来たのです。

そしてまさにこの仏像の前で、火にまかれる上様の幻を見た……。思えばあの時の幻が、今は悪夢となって私の不安をっているのじゃ」

深刻そうに強張る濃姫の面差しが、室内の薄暗さも手伝って、更に酷烈に、として見えた。

「されど、ここには火事を引き起こしそうな物は何もございませぬな」

周囲を確認しながら、古沍が独り言のように言った。

確かに彼女の言う通り、殺風景な室内には火の気はまるでなかった。

部屋の隅に使い古された台が幾つか置いてあったが、は抜き取られ、は抜き取られ、き出しになっている。

以前は本堂にあった物と思われる目の前の三宝尊には、枯れかけた花が両脇にえられていた為、

時折はここに僧侶らが出入りして、読経が捧げられているのであろうが、線香や抹香といった類は見当たらなかった。

必要な場合に応じて外から持って来るのであろう。

火災の経緯が、必ずしもこの部屋だけに限らないことは濃姫たちも承知であったが、

少なくとも火種がないという事実が分かっただけでも、お猪口一杯分くらいの